不妊治療について

タイミング法

まず知っておきたい、妊娠への第一歩

妊娠を考え始めたとき、「ピルをやめたのに、なかなか授からない」と不安に感じる方も多いかもしれません。避妊目的でピルの服用を中止した場合、多くの方は3か月以内に排卵が再開するとされています。また、ピルを長期間服用していたこと自体が、その後の妊娠のしやすさに影響することはないと、日本産科婦人科学会などの解説でも示されています。そのため、「ピルを飲んでいたから妊娠しにくいのでは」と過度に心配する必要はありません。一方で、年齢や生活習慣は妊娠に影響する要因とされています。服用前から月経不順があった方や、ピル中止後3か月以上たっても月経が再開しない場合、基礎体温を測っても排卵の目安が分かりにくい場合には、一度婦人科で相談してみるとよいでしょう。早めの相談は、不安を軽減し、安心して次のステップを考える助けになります。

参考文献
日本産科婦人科学会「低用量経口避妊薬・緊急避妊法に関するCQ」
https://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf (閲覧日:2025年12月15日)

卵子と精子、実は「寿命」が違います

妊娠を考えるうえで、卵子と精子の寿命の違いを知ることはとても大切です。卵子は生まれる前から数が決まっており、年齢とともに徐々に減少していくことが知られています。さらに、毎月排卵された卵子が受精できる時間は、およそ24時間と非常に短いのが特徴です。一方で、精子は女性の体内で2~3日ほど生存できるとされています。この寿命の違いから、排卵のタイミングに合わせて精子が卵管に到達していること、そして卵子の寿命内に受精が起こることが、妊娠成立のためには重要になります。

「その日」はいつ?妊娠しやすいタイミングとは

では、「妊娠しやすい日」を正確に知ることはできるのでしょうか。日本産科婦人科学会や日本生殖医学会では、妊娠が成立しやすいのは排卵日の直前であり、特に排卵日の1~2日前が最も妊娠しやすい時期とされています。一方で、排卵の6日前以前や排卵翌日以降では、妊娠の可能性は大きく低下すると考えられています。排卵日を自己判断することが難しい場合も多いため、医療機関で排卵の状態を確認することで予測の精度が高まり、結果として妊娠につながりやすくなるとされています。

参考文献

日本産婦人科学会「タイミング療法」

https://www.jaog.or.jp/ (閲覧日:2025年12月16日)

人工授精

人工授精ってどんな治療?“人工”と聞いて不安な方へ

子宮腔内人工授精(IUI:intrauterine insemination)には、配偶者間人工授精(AIH:Artificial Insemination of Husband)と提供精子を用いた人工授精(AID:Artifical Insemination with Donor’s semen)があり、使用する精液の違いによって区別されます。
IUIは、精液を洗浄・濃縮し、専用のカテーテルを使って子宮内に注入する治療法です。「人工」という言葉から特別な治療を想像されがちですが、自然妊娠に近い形で医学的にサポートする方法で、体への負担が比較的少ないとされています。
タイミング療法を複数回行っても妊娠に至らない場合や、総運動精子数が少ない場合、また性交障害やED、仕事の都合などで性交が難しい場合に選択されます。治療は月経開始後から始まり、超音波検査や血液検査で排卵の時期を確認します。人工授精当日は、調整した精液を柔らかいカテーテルで子宮内に注入するため、痛みを感じにくいよう配慮されています。

人工授精の妊娠率はどれくらい?

人工授精の妊娠率は、日本産科婦人科学会のデータによると、1回あたりおよそ5~10%前後とされています。人工授精は、精子を子宮内に届けることで受精のチャンスを高める治療法ですが、卵子の質や受精そのもの、着床までを直接コントロールすることはできません。そのため、妊娠率には一定の限界があると考えられています。
実際には、人工授精を複数回行ったうえで体外受精へステップアップするケースも多く見られますが、治療の進め方や回数は年齢や不妊期間、検査結果などによって異なります。無理に回数を重ねるのではなく、主治医と相談しながら、ご自身に合ったタイミングで治療方針を決めることが大切です。

参考文献

日本産婦人科学会「人工授精」

https://www.jaog.or.jp (閲覧日:2025年12月16日)

妊娠しない理由は「精子の数」だけ?

WHO(世界保健機関)の基準では、自然妊娠の可能性があるとされる総運動精子数は、1,500万以上が目安とされています。ただし、この数値はあくまで「最低限の基準」であり、平均値ではありません。そのため、基準を上回っていても必ず妊娠できるわけではなく、下回っていても妊娠する可能性はあります。
また、精液の数値は体調やストレス、生活習慣、禁欲期間などの影響を受け、日によって変動します。精子が作られるまでには約2~3か月かかるため、一度の検査結果だけで判断せず、複数回の検査で全体の傾向を把握することが大切です。

精液所見に対しての下限基準値 (5% タイルと95%の信頼範囲)

パラメーター 下限基準値
精液量(mL) 1.4 (1.3-1.5)
精子濃度(百万/mL) 16 (15-18)
総精子数(百万/精液中) 39 (35-40)
運動率(%) 42 (40-43)
前進運動率(%) 30 (29-31)
生存率(%) 54 (50-56)
正常形態率(%) 4 (3.9-4.0)

参考:WHO精液検査マニュアル 2021より抜粋

参考文献

WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th ed

https://www.who.int/publications/i/item/9789240030787 (閲覧日:2025年12月16日)

体外受精・顕微授精

体外受精と顕微授精、何が違うの?どちらを選べばいい?

体外受精(cIVF:Conventional In Vitro Fertilization)は、採卵によって得られた卵子に精子を培養液の中でふりかけ、自然に近い形で受精を待つ方法です。体の中で起こる受精の過程を体外で再現する治療で、精液検査の結果が概ね正常範囲にある場合や、不妊の原因が卵管因子、子宮内膜症など女性側にある場合に選択されることがあります。

一方、顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)は、細いガラス針を用いて、形や運動性の良い精子を1つ選び、卵子の中に直接注入する方法です。精子の数が少ない、運動性が低いなど、自然な受精が起こりにくい場合でも受精を可能にできる点が大きな特徴です。

これらの媒精方法の違いは主に「受精までをどうサポートするか」にあり、その後の着床や妊娠の経過には大きく影響しないと考えられています。どちらが良いかは年齢や精液所見、不妊の原因によって異なるため、主治医と相談しながら、自分たちに合った方法を選ぶことが大切です。

採卵ってどれくらい痛いの?

痛みの感じ方には個人差があります。痛みに対する感受性の違いに加え、緊張や不安といった気持ちの状態、卵巣の位置や卵胞の数なども影響すると考えられています。
採卵は、医師や看護師に加え、採取された卵子を確認する胚培養士など、複数の医療スタッフが連携して行います。安心して臨んでいただくためにも、事前に採卵の流れを知り、不安や疑問を解消しておくことが大切です。
また、採卵に使用する針は、できるだけ痛みや出血を抑えられるよう工夫されています。最小限の穿刺で採卵ができるよう、細く鋭い針が用いられています。施設によっては麻酔を選択できる場合もありますので、痛みが心配な方は、事前に主治医へ相談してみてください。

受精卵を凍結すると質は下がるの?

受精卵の凍結では、培養後に移植に適した胚を選び、「ガラス化保存」と呼ばれる方法で凍結します。これは、専用の凍結・融解用試薬を用いて、受精卵を液体窒素の中で一気に冷却し、細胞内に氷の結晶を作らずにガラス状のまま保存する技術です。この方法により、細胞の構造を保った状態で長期間保存することが可能になります。
「凍結すると質が落ちるのでは?」と不安に感じる方も多いかもしれません。しかし、KITAZATOのガラス化凍結融解液を用いた卵子や胚の凍結では、凍結した場合と凍結を行わなかった場合とで、妊娠率や出生率に差がなかったという報告があります。受精卵を安全に保存している間に、子宮内膜の状態を整えることができる点も、凍結胚移植の大きなメリットのひとつです。そのため、体の準備が整ったタイミングで移植に進むことができます。

参考文献:

Cornet-Bartolomé D et al., Hum Reprod 2020, Daniela Braga et al., Fertility and Sterility 2016